ハボック×ロイ(ハボック士官学校時代捏造)
2007.10.12.Fri.如月さくら
あれからどれだけの日が過ぎたかは、
正直覚えていなかったし、数えてもいなかった。

ただ季節は確実に過ぎていて、
学生には当然訪れる嫌な時期はもう間近で。

元々得意でもない筆記試験は、
毎度頭を悩ませていた訳だが、
今回は何時もよりも更に頭が痛かった。





本の名前





「試験のひとつやふたつで自分の未来なんて決めたくねぇ・・・。」

伝えられた試験範囲は、
普段から勉強を苦手と敬遠している自分にとっては非常に広い。

ただでさえ苦手な分野が、
頭に入りきるはずのない量で押し寄せてくる。

士官学校付属の図書館には、
既に何人もの生徒達が試験勉強に打ち込んでいるのだが、
自分の目の前に積み上げられた参考資料という名の
分厚い書籍を見ればやる気だってなくなるというものだ。

「お前ちっとも進んでねぇじゃん。」

後ろから覗きこんで呆れた声を出すのは、
学校で知り合った、気の合う親友となったブレダだった。

外見の割に、頭脳明晰。
学内でもトップの成績保持者だ。

「今回やべぇと本当にマズイんだろー?」

真面目にやれよ、と軽く小突かれる。

同じ様に生活しているはずなのに、
コイツの頭はどうかしているんだ、きっと。

「んでも、勉強しようって気になったのは本当みたいだな。」

俺の目の前に広げられている本を見て、
普段なら絶対に目を逸らすはずの文字量に頷く。

「やる気はこいつらに吸い取られた。」

誰がこんなものを読むんだ、
と突っ込みたくなる程に一冊一冊が分厚すぎる。

5冊も持とうものなら、腕の筋肉が鍛えられそうだ。

「あんま根詰めんなよー?適度に息抜きもしろー。」

それでもお前はもう少し根性見せろ、
と付け足しながらべしべしと肩を叩かれる。

「あー・・・ちょっと歩いてくる・・・。」

何処を歩いても本しか無いのは分かっていたが、
理解もできない文字列を目の前に座り続けるよりはマシだろう。


学校付属の図書館であるからか、
そこそこ貴重な文献なども揃っているらしい。

時折、学生でも教師でもない、
けれど軍服を身に纏った軍人を見かける。

何人かは、きっとこの学校出身者で。
学生時代に見た夢を、未だに追っているのだろうか。

国の為にと、自らを犠牲にして。
欺瞞も矛盾も、見て見ぬふりをして。


あの人は、そうではなかった。

晴れ渡った空を背に、
さらさらで綺麗な黒い髪と、
強い意志を秘めた瞳を持った、あの人は。

「っと・・・!」

一瞬、眼の前にあの同じ黒が現われて。

それが自分の身体にぶつかりそうになって、思わず腕を伸ばす。

「だ、大丈夫です・・・・・・か・・・?」

掴んだ腕は、双黒の彼のものであって。

その彼は、
自分が今し方思い出していた人で間違いもなく。

「あぁ、すまない。ちょっと余所見を・・・」

間違えるはずもない彼は、あの時の、あの人で。

「あ、えっと・・・!!」

「ん?・・・あぁ、あの時の。」

覚えていてもらえた。
それだけで、こんなにも嬉しいとは。

「ジャン・ハボックです!」

先程までもう図書館になど用は無いといった風だったくせに、
今では此処に来て良かったと思う単純な脳内。

「うん、ハボック。こんな処で会うとは、奇遇だな。」

相変わらず不思議な、
軍人らしからぬ雰囲気を纏った彼は、俺の名前と顔を一致させて微笑んでいる。

「い、今試験期間で・・・。」

「あぁ、なるほど、それでか。」

やけに多い利用者の理由が分かり彼は納得したようだった。
そして同時に、しくじったな、という顔をして。

その理由は、どうやら手に持っている大量の本にあるらしかった。


試験用の参考文献が少ない場所だったからか、あまり人の居ない本棚の間。
どさ、と分厚い本を机に乗せ、ふぅ、と一息ついている。

「これ、全部持ち出し禁止のヤツですよねぇ?」

置かれた本を見れば、
全ての本にきっちりと図書館外への持ち出しを禁止する印が付いている。

「ん?あぁ、学生は一部文献を除き閲覧も不可能だ。」

貴重で、かつ重要な内容が含まれているのだろう。
自分にとっては大して興味の無い文字の羅列は、元々覗き見る気も無いのだが。

「こんなにたくさん、どうするんですか?」

その本の内容よりも、
こんな分厚い筋トレ用としか思えない本たちを抱えていた彼に興味があった。

きっと勉強熱心な人で、全部読もうと思っているんだろうとか、
仕事の関係で必要な資料だから調べないといけないとか、そんな感じなのだろうけれど。

「あぁ、持って帰る。」

「え?」

思わず自分の耳を疑って、聞き返してしまう。

だって、全部図書館からの持ち出しは禁止されている本だし。

「持って帰って部屋で読む。その方が、落ち着いて読めるからね。」

積まれた本を嬉しそうに見つめながら、目の前の人はそんな風に言う。

全く悪びれた様子もなく、
寧ろどうやったら悪戯が成功するか考えている子供の様な顔で。

「い、いや、でも・・・コレ、全部持ち出し禁止なんじゃ・・・」

もしかしたら、
ある程度の地位を持った軍人ならそんな事は関係無いのかもしれない。

目の前のこの人は国軍の少佐で、
確か国家錬金術師でもあったはずだから。

だからきっと、規則も緩く・・・

「あぁ、だからこっそりとね。」

そのつもりだったのに今日は利用者が多くて・・・と残念そうにして。

「こっそりって・・・それって、規則違反・・・。」

俺が思わず口にした言葉に反応したのか、こちらへと視線を向けられる。

「あ、えと・・・」

「君の口から、規則などという単語が出てくるとはね。」

それからおかしそうに笑って、でも良いんだ、と続けられる。

「セントラルの図書館にも同じものが置いてあってね。
 この本たちを必要としている人たちは、大概そっちへ行くのだよ。
 此処は学生の利用者が多いから、
 持ち出し禁止の本のたかが2、3冊ぐらい無くても気付かれない、という訳だ。」

素晴らしい考えだろう、とでも言いたげに笑っているマスタング少佐には、
けれど今持ち出そうとしている本が
たかが2、3冊では無いという突っ込みも受け付けてはもらえないのだろう。

軍人にしては華奢に見えたその体躯で、
筋トレにも使えそうな程の量を抱えていた事を考えると、
やはりこの人もちゃんと鍛えているんだろうな・・・。

何故だか、今はどうでも良いそんな事を思ってしまって。

「それよりハボック、勉強は進んでいるのか?」

大事な時期なんだろう?と俺の方を見ながら聞いてこられ、思わずはっとする。

「どんなにその気があっても、卒業できない奴は私の横には立てんぞ?」

確かに、その通りだ。

自分がどれだけこの人の傍に居たいと思っても、
卒業できるかすら危ういのではどうしようもない。

「いや・・・その・・・・・・。」

あまり勉強が得意ではないらしい事は、とっくに分っているらしい。
言葉を詰まらせる俺に、苦笑しながらそうだな、と軽く思案して。

「一冊ぐらいなら、読めるか?」

そう言うと、上着からメモ帳を取り出して何かを書きだす。

「わりと薄めの本だったはずだから、大丈夫だろう。」

ベリ、と文字の書かれたページを破り、こちらへと手渡す。

走り書かれた、綺麗な、けれど癖のある文字。

「これは?」

どうやら、本のタイトルらしい。
講師も、クラスメイトも、口にしなかったタイトルではあったが。

「気分転換にぐらいなら、なると思うよ。」

にこりと微笑まれると、それ以上の言葉すら思いつかない。
この間と同じ、心臓を鷲掴みにされたような。

「あぁ、それと・・・この事は内密に、な。」

机に積んであった本を抱えなおし、ウィンクまでされて。


どうやら自分の先輩で、
他の軍人たちとは随分と違っていて、
綺麗で、偉くて、可愛らしい、不思議な人。

もっと傍で、ずっと傍に。
あなたの横に居られるように。


示された本が適度に息抜きになる程度の内容で、
けれどそれが試験にも役立った気がするのは、贔屓目だったからだろうか。

何はともあれ、試験はそれなりに終わり、また時間が過ぎる。

あなたの横に立てるようになるまで、まだ少し時間はかかりそうだけれど。



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This fanfiction is written by SakuraKisaragi.
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