ヒューズ×ロイ(突然の訪問、ヒューズ←ロイ)
2007.08.30.Thu.如月さくら
先程まで乾いていたはずの地面は、
突然降り出した天からの恵みで潤っていて。
少し蒸し暑かった外気は、
体感温度的に少し下がった様だ。
部屋の中で置き去られたカフェオレは、
多分まだまだ温かい
ヤラズノ雨
何度か扉を叩く音がして、
それからまた静かになる。
チャイムを鳴らしても無視をする習慣の所為で、
知人が来ても全く分からない。
「・・・ヒューズ・・・?」
合図を決めよう。
そう言って勝手にチャイムと扉を叩く回数で
自分が来た事を知らせるようになったヒューズ。
中央と東方とで勤務地が離れてからは聞く事の無くなっていた音に、
つい本を読んでいた手を止め玄関へと足が向かう。
「・・・・・・ヒューズ?」
扉の前に立って、直ぐそこに居るであろう人の名を小さく呼んでみる。
「ローイ。俺だ、俺。」
返ってきた返事は、やはり彼のもので。
かけていた鍵を開け、扉に手をかければいつもより軽い力で開く事ができた。
「お前さん、合図忘れてたのかー?」
ちゃんと決めただろ、そう言って笑っている目の前の男は、
やはりどう見ても、
中央に勤務中の、こんな処には居ないはずのヒューズだった。
部屋へと案内するよりも早く入り込み、
私の分も一緒に飲み物を用意する。
相変わらず、遠慮が無い。
ちょうど休憩でもしようかと思っていたところだったから、良しとしよう。
「ヒューズ、お前どうして此処に?」
仕事はどうした、と続けようと口を開けば、
目の前に置かれたカップには私好みの、ヒューズが作ったカフェオレが入っている。
「いや、お前さんに会いたくなっちまってなー。」
相変わらずの冗談らしい。
笑いながらそんな事を言って、
私がカフェオレを口にするのを見ている。
「・・・美味しい。」
ヒューズが入れるカフェオレは、
いつの間にか私好みの味になっていた。
自分はブラックで飲むくせに、どうして私の好みを知っているのだろう。
以前聞いた時には、愛だとか慣れだとか言っていたけれど。
「こっちに来る用事があってなー。
司令部に寄ったら、今日はお前さん非番だって聞いたからさ。」
会いたかったのは嘘じゃねぇよ、と笑顔で続けられる。
「だったら、もう用事は済んだのだろう?」
会いたくなかった訳では無い・・・のは、事実だけれど。
「まぁ、そりゃそーなんだけどなー。」
それでも、時間的には帰る時間が近い事も分かっていた。
仕事で会えば大して感慨も無いのだろうが、
こうして自分の部屋で話をしていると、
もう少しこのままで居ても良いなどと思えてくるから不思議だ。
「だったら、さっさと帰れ。」
なのに、そんな事は一言たりとも口にしない。
「えー・・・ロイちゃん冷たーい。」
ぐすぐす、と泣き真似をしてみせるヒューズは、
ふざけている様にしか見えない。
「私はお前に用事は無い。」
これも、事実だ。
「へいへい。読書の邪魔して悪かったな。」
自分用に、と入れたコーヒーをさっさと飲み干して、
先程座ったばかりの椅子から立ち上がる。
「んじゃ、またな・・・ロイ。」
くしゃり、と一度だけ頭を撫でて。
不満が無い訳ではないのだろうが、
私の意見に従おうとする時は大体こんな風に子供扱いをして。
「あぁ、また・・・な。」
甘めに入れられたカフェオレは、
まだ熱くて良く味わえずにいた。
扉が閉まる音を背中に聞いて、
顔が見れただけでも十分だったな、と自分で納得する。
下手をすれば、
部屋に入れてもらえない場合もある。
「さて、帰るとしますか。」
ロイの部屋を後にして、のんびりと歩きだす。
マグカップを洗って帰らなかった事を、
アイツは後から怒って電話などしてきてくれるのだろうか。
どんなきっかけでも、
自分と繋がりを持ってもらえるなら、それはそれで嬉しい。
ちょっとした小言ぐらい、どうってことないのだ。
ふと、一瞬生暖かな風が頬を撫でて。
気付けば、空から幾つもの雨粒が零れてきた。
「おわ、雨っ・・・」
傘なんて持ってきている訳がない。
通り雨だろうか。
近くに雨宿りができそうな場所も見つからず、
数分前に歩いた道を少々急いで逆戻りする。
両手でカフェオレ入りのカップを包み込んで、
無くなるはずのない中身をじっと見つめてみる。
ヒューズが入れたそれは、
本当に気付いたら自分好みの味になっていて。
口に含めばその甘めの味が口内へと広がって、
なんとなく、理由も分からずに安心するのが分かった。
一息ついた後、ふと窓の外へと視線を向ければ、
先程までは晴れていたはずの外界にはどうやら雨が降り出したらしい。
「・・・雨?」
玄関を開けた時には、確かに晴れていた。
アイツは、傘なんて持ってきていなかっただろう。
「・・・・・・、」
マグカップをテーブルへ置いて、軽く手櫛で髪を梳く。
玄関へと少々早足で歩いて扉を開ければ、
やはりそこは空から降り注いだ雫によって濡れてしまっていて。
「ヒュー・・・」
部屋を出て行ってそう間も無いはずの彼の名と、その姿を探す。
「よー、ロイ。」
けれど、その声と相変わらずの笑顔は、自分の直ぐ真横から聞こえて。
「・・・ヒュー・・・ズ。」
どうしてそんな所に、と思わず口にしようとする。
髪と服が少々濡れているその様子に、
どうやら此処で雨宿りしているらしい事が分かった。
「・・・何をしてるんだ。」
「んー・・・雨宿り。」
つい聞いてしまった言葉には、
降り続ける雨に向かって答えているようで。
「・・・・・・帰ったんじゃなかったのか。」
「傘、持ってきてねぇからなぁ。」
私の問いなど意に介さず、
寧ろはじめから予想していたように笑っていて。
「・・・・・・・・・風邪ひくぞ、馬鹿。」
早く入れ、と呟いてタオルがしまってある場所へ引っ込む。
いっそシャワーでも浴びさせるか、と一人で考えながら、
数分前にもやって来た客人を部屋へと招き入れて。
会いたくなかった訳ではない。
もう少しだけ、傍に居られたらなんて。
通り雨なら、きっと直ぐにでも止むだろう。
テーブルの上に置いたままの
マグカップの中身が冷めてしまう前に。
この雨が、
遣らずの雨である事にアイツが気付く前に。
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にゃんこのしっぽ
This fanfiction is written by SakuraKisaragi.
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