ハボック×ロイ(ヒューズ没後、ヒューズ←ロイ前提風味)
2007.08.23.Thu.如月さくら
気付けば当たり前のようにそこに居る。
自分にとっても、彼にとっても、それが当然のようになっていて。

それはとても嬉しい事であるはずなのに、
どうしてこんなにも不安になってしまうのだろう。

手に入れてしまえば色褪せる何かは、
少なからず人を想う気持ちにも相違は無いというのだろうか。





致死量に満たない、





「大佐は、不思議な人ですね。」

ロイの身体に腕を廻したまま、
ハボックはそれでも嬉しそうに囁いてくる。

「不思議・・・?」

どういう意味だ、と首を軽く後ろへと向ける。
けれど真後ろから抱きしめられていては、表情までは見えない。

「なんてゆーか・・・雲の上の人みたいな。」

また、訳の分からない事を。

ハボックは時折、
思いついたように自分には分からない部類の話をふってくる。

それが腹立たしいと思う事は無いものの、
自分には分からない、何かを見ているようで少しだけ悔しくなる。

「こうやって抱きしめてんのに、
 何だか全然自分のものになった気がしないんスよ。」

おかしいですよね、と肩口に顔を埋めて呟く。

「大佐は誰のものでもないって分ってんのに。」

なのに、とハボックは更に続ける。

「なのに、俺はアンタを自分のものにしたいって思っちまう。」

こうやって抱きしめていられるだけで、本当は十分なはずなのに。

少しだけ辛そうに告げた言葉と共に、
ロイの身体に廻された腕に力が入る。

「・・・ハボック。」

「はい?」

こちらの呼びかけに素直に答え、
けれどやはり元気が無いようにも思えてしまうのは、私がおかしいからだろうか。

「どうした?」

何かあったか、などと聞いたってどうせまともな答えは返ってくるはずがない。
そんな事は、とっくに分っているのに。

「好きです。」

私の問いかけなど無視した返事。

「ハボック・・・私の質問に」

「好きです、大佐。」

この男は、一体何を自分の中で完結させているのか。

思考回路など分かる訳がない自分では、
彼が言っている言葉の真意も、意図も、全く想像できない。

「大好きっスよ、大佐。」

「分かったから・・・。」

しかし分かる分からないよりも、
何度も好きだと耳元に囁かれる方がこたえるのだ。

もういい、と軽く制しても続く愛の言葉は、
多分私にとって致死量ギリギリの猛毒と同じなのだ。

最近、そんな風に思えてきた。

雲の上だか天上の人だか知らないが、
ハボックはそんな私を堕とそうと、言葉の毒を与えてくる。

その毒は、やけに甘い。

甘くて、切なくて、不安になるぐらいに、ひどく優しい。

いっそ死に直結してしまえば、
こんなに怖ろしいと思う事もないはずなのに。

終わりの恐怖は感じられるのに、
それが1秒後に訪れるのか、それとももっとずっと先の事なのか。

何時までこれが続くのか分からない。
それが更に自分を不安にさせるのだろう。

今すぐ終わってしまえば良い。
けれど、このままずっと続いて欲しい。

相反する何かが、
自分を更に深い、暗い、甘い、やわらかな場所へと堕としていく。


相変わらず自分の身体へと廻された彼の腕。
断ち切ろうと思えばいつでも消す事ができそうな鎖。

背中に感じる体温は、自分以外の、自分よりも温かな彼のもの。
壊してしまおうと思えば、そんなに難しくもないであろう鍵。

与えられる全ては、
自分にとってはひどく甘い、優しすぎる猛毒で。

終わりにしようと思っても、
既にその毒に侵された自分に酔ってしまっていては意味が無い。

いっそこのまま。

致死量に満たない、
その猛毒を与え続けられたら。

私は、お前の事だけしか見えなくなるのだろうか。

私は、お前だけを見ていれば良くなるのだろうか。

それはそれで、きっと幸せなのだろうな。

忘れられない過去も、
覚えていたい想いも、
変えられない真実も、
全てをお前で埋め尽くす事ができるなら。



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This fanfiction is written by SakuraKisaragi.
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