ハボック×ロイ(アネモネの花言葉より)
2007.07.22.Sun.如月さくら
先に声をかけてきたのはあの人だった。
何も考えずについていったのは俺の方だったが。
冗談交じりで仕掛けてきたのは向こうだった。
まさか本気になるとは思っていなかったんだろうか。
Lily of field
どうやら随分と長い間寝ていたようだ。
まだ陽が出ていた時間からベッドに入ったはずだった。
既に月も地平線へと近付いているのかもしれない。
それでもすやすやと、小さな寝息が聞こえてくる。
最近はあまり眠れないんだと、そう云えば聞いた様な気もする。
喉の渇きに気付いてベッドから降りた。
ふと、布団に包まり未だ眠りの中に居る人へと視線を向ける。
布団に僅かに散らばる黒い髪。
今は閉じられて見る事の出来ない瞳も、確か漆黒だった。
コップに水を注いで喉の渇きを潤す。
そう云えば少し、喋りすぎた気もする。
わざわざ伝える必要の無い言葉まで、紡いでしまったかもしれない。
「何かマズイ事言ったっけな・・・」
声に出して、それから考えてはみたものの、上手く思い出せない。
ついさっきの事のはずなのに、どうやら眠ってしまったのが悪かったらしい。
大した事は、言っていない。
多分、そう云う事だろう。
当り障りの無い、お互い傷付く事が無い言葉を、上手く発せられていたって事だろう。
それとも、俺が気付いていないだけか?
俺が気付かないうちに、あの人を傷付けているのか。
「・・・そーかも。」
自分で考えて、思い当たる。
そんな馬鹿さ加減にひとりで苦笑いしてしまう。
今までに何度となく、自分は自分が気付かない処で、何気なく、誰かを傷付けていた。
そんな事は、もうずっと前に、知っていた事。
ベッドへと戻ると、相変わらず漆黒の瞳は隠れたままだった。
規則正しい小さな寝息が聞こえてくる事に、俺は多分、無意識に安堵していた。
軽く息を吐きながらベッドの端に座る。
そう云えば、煙草は軍服のポケットに入れたままだった。
立ち上がって取りに行くのが妙に億劫で諦める。
煙草は身体に悪いからやめろと、
今は背を向けて見えない人に何度も言われた事を思い出す。
その度に、俺は色々とくだらない理由をつけて誤魔化していた気がした。
他愛のない、けれど愛おしい、その時間。
もう一度眠ろうと、布団へと入る。
数分の間に、随分と冷えてしまっていたようだった。
温もりを求め、自然と腕が伸びる。
隣で眠ったままの人は、妙に暖かく感じた。
「・・・少尉・・・・・・?」
胸元から、いや、抱きしめていたその人から、急に自分を呼ぶ声が聞こえた。
「どうしたんだ・・・?もう、朝か・・・・・・?」
質問をする声が掠れた気味なのは、寝起きだからだろうか。
それとも、眠りに落ちるまでずっと声を出させていたからだろうか。
自分を見ているのは、先程まで見る事が出来なかった漆黒の瞳。
その瞳に映っているのは、他でもない、俺の姿。
「いえ・・・もう少し、寝ましょう。」
視界を掌で覆ってしまう。
抱きしめる腕にも少しだけ力を加えた。
闇の中でも、ただ俺の声だけを聞いていればいいと思う。
何も無い世界で、俺の存在だけを感じていればいいと。
また、眠りについたのだろう。
規則正しい息遣いが聞こえてきた。
好きだ、とか。
愛してる、とか。
そんな言葉を望んでいる訳でも、求められている訳でもない。
儚い恋、とも。
報われぬ恋、とも。
そんな言葉で表現するのは、間違っている気がして。
それでも、同じ時間を過ごせる事を嬉しいと思えた。
ただ傍に居られるだけで、幸せだと感じられた。
「・・・、」
黒い髪に指を絡めてみると、さらり、と滑り落ちた。
一体どれだけの人に、同じ事をされているのか。
そんな事はもう、考える気にもならなかった。
考えても無駄な事で、どうにもならない事だと知っていたから。
今はそう、この人は此処に居る。
けれどずっと、手に入る事は無いのだろう。
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にゃんこのしっぽ
This fanfiction is written by SakuraKisaragi.
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