ヒューズ×ロイ(司令部から抜け出しておやつの時間)
2007.07.10.Tue.りん
ドーナツ





「だめだ、仕事が捗らん。」
書類とともに机に身を投げ出し、だれるロイ。
そんなロイを見たあと、
そのまま時計を見やるともう2時を回っていて。
大量に積まれた書類とロイの姿に、苦笑を一つ洩らしてしまった。
「ったく、お前さん…まだ半分も終わってねぇだろ?」
「ヒューズーーだめだーー糖分きれたーー。」
うだうだとだれている姿は、
とても国軍大佐殿とは思えなくて。
自分と同じ年のいい大人のはずなのに、
可愛い、甘やかしたいなと思ってしまう自分はもう末期だ。
……まぁ、これは大分昔から分っていたことだけど。

自分のやり終えた書類をトントンとまとめると、
ロイの前まで歩み寄り
「なんなら、何か買いに行くか?」
と、コイツの有能な副官に聞かれたら、
風穴がひとつふたつは開くこと間違いないだろうが。
まぁ、今日くらいは…いいんじゃないかな。
「なにっ、本当かヒューズ?!」
おーおー、目輝かせてくれちゃってよ。
終いにゃ襲うぞ、コラ…なんてな。
「おぅ。だって、お前さんこのままやっててもちっとも進まねぇんだろ?
 だったら、さっさと糖分確保しに行こうぜ。息抜きにもなるし。」
「流石ヒューズ!話がわかるな。」
菓子の一つや二つ、部下に用意させればいい…
だなんて言葉、この際無視だ。ナンセンスだ。
「っと…、でも流石に堂々と正面切って外出るのはいけねぇよなぁ…。
 ということは………その窓から出るか。」
くいっと、顎でロイの背にある大きな窓を示す。
暫く思案した後、嬉しそうに笑うとロイはコクリと大きく頷いた。
「よし、行こうっヒューズ。」
「おぅ。」
窓をそっと…
でも、気分では思いっきり開けて、スタンと外に降り立つ。
「何か、士官学校時代みたいで懐かしいなぁ。
 昔もよくお前に誘われて、外へ出ていた。」
後から降りてきたロイは、
昔を思い出して柔らかく微笑みながらこっちを見た。
「んじゃあ、気分は学生時代ってことで♪」
「ちょっ、ヒューズ?!!」
人目について目立つところまでは昔のように手を取って歩こう。
お忍びでの外出ってのもあるから、ちょうどいい。
それに、ロイも抵抗しねぇし。

うららかな陽気の昼下がり、
手に手を取って仲良くプチ・デート。
ま、本人はその気があるんだか何だか、わからねぇケド。


「んー、ここでいいか、ロイ?」
しばらく歩いて見つけたのはドーナツ屋。
店内には様々な形や色をしたドーナツが所狭しと並べてある。
「ん、いい…。」
既にロイちゃんってば、店内のドーナツで頭がいっぱいの模様。
そんな様子のロイに苦笑すると、扉を押して店内に入った。
「さって、ロイちゃんはどれにすっのー?」
トレイとトングを持って、ドーナツの前に立つ。
沢山あるドーナツの前でロイは
「あれにしようかな…いや、こっちも捨てがたい。」
なんて呟きながら、真剣に悩んでいる。
そんな可愛らしい様子に思わず噴き出したら
「何がおかしい。こっちは真剣なんだぞっ。」
とプリプリ怒られた。
や、だからそれが可愛いいんだって。
わかってないんだからー。
さっさと自分の分を選んだ俺は、こう提案してみた。
「じゃあさ、ロイ。迷ってるもん、全部買っちまえば?」
「?!良いのか、ヒューズ?!!」
がばっと掴みかかりそうな勢いでこっちでこっちを見上げたロイ。
本日二度目の、おめめキラキラ光線。
ちくしょー、どうしてお前さんはそんなに可愛いんだ!!
「じゃあなっじゃあなっ、
 コレとコレと、あっちのと、あの端っこにあるやつ!」
次々と指さされるものは、
クリームが挟まっていたり、チョコでコーティングざれていたりと
見ただけですっごく甘いな、と分かるものばかり。
「お前は、一つだけでいいのか?」
「あー、いいのいいの。
 俺はお前さんといるだけお腹いっぱいだから。」
嘘ではなく、これは事実。胸一杯っていうやつ?
「んなっ、恥ずかしいことをさらりと言うな。
 …とかなんとか言って、後で欲しいといってもやらんぞ?」
「お前さんこそ、そんなにいっぱい頼んで、
 後から食えなくなっても知らねぇぞ?」
目元を少し染めてくれたのは見間違いか、
それともあとの言葉は照れ隠しか。
緩む顔をなんとか引締め、店番のお嬢ちゃんにお金を渡す。
……お嬢さん、その笑みはなんだい?
………まぁ、良い年した大人(しかも軍服着てっし)が
真昼間からドーナツ買いに来るなんて変わった光景だとは認めるがな。

「ドーナツは私が持とう。」
珍しくロイからの提案に、そのまま紙袋を渡して帰路につく。
きっと始終、ドーナツのことで頭がいっぱいなんだろう。
紙袋を見ながら、
しかも少しあいた隙間から中身を覗いてみたりなんかして、満面の笑みだ。
可愛いんだが…可愛いんだが……何か妬ける。
や、ちょっとドーナツにやきもち妬いてどーするよ、俺。
ホント、気分は学生ってか。

再び人目のつかないとこまで来ると、
ロイの片腕を引っ張り自分の腕の中に閉じ込めた。
「ちょっ、ひゅーず?!」
と驚いた声を上げたかと思ったら、
ドンっときつく胸を押されて離れる。
「いきなり何だ?ーナツが潰れるだろ!」
え…ちょと……ドーナツ?
『俺<ドーナツ』ですかー、ロイちゃん…。

ドーナツが守れたことに意気揚揚と歩いていくロイと、
しょんぼりと歩いていく俺。
すげー対照的で、笑えねぇけど笑える。


「お帰りは窓からお願いしマース。」
出てきたときと同じ、執務室の窓の前まで来ると、
ロイから紙袋を取って先に入るよう促す。
窓枠が少し高い位置にあるので
「手を貸そうか〜?」
などとおどけて言ったら
「馬鹿にするな、馬鹿者。」
と、ぴしゃりと返された。2回もバカって…。
無事入れたのを見届けると、
今度はロイに紙袋を手渡して自分が入る。
何とかバレずに、帰ってこれたみたいだ。
時計を見ると、すでにあれから小一時間経っていたみたいだ。
「お、おやつにはちょうどいい時間だな。」
「うむ、さすが私。」
「へぃへぃ、食べたあとは頑張ってもらうぜ?ロイちゃん。」
「仕方ない、等価交換だな。」
フフンと笑って、ロイが紙袋を開ける。
「あー、待て待て。皿に移すから。」
寸前のところでロイを制し、取り上げる。
ちょっとムスっとした顔をされたが、
悪い提案ではないのでそのまま大人しく従った。

「はいよ、お待ちどーさん。」
来客用のテーブルに、
買ってきたドーナツとついでに淹れてきた
コーヒー(ロイはカフェオレ)を置いて、ロイを呼んだ。
待ってました、と言わんばかりの表情で、
自分の椅子に座っていたロイがこちらに向かって歩いてくる。
俺は、長椅子に座ってその様子を見ていた。
「ふふふ、どれから食べようかな。」
またもや、ドーナツがロイの脳内を占める。
ちょっと面白くないと思いつつ待っていると、
ちょこんと隣に座ってきた。
ご丁寧に、向かいに置かれていたカップを
自分のとこまで引っ張ってきてまで。
ちょっと…いや、すげぇ嬉しいかも。
「いただきます。」
「はい、どうぞ。」
ぱん、と手を合わせてロイはドーナツに手を伸ばす。
どれから食べようか、と暫く悩んだ後、
チョコ生地にカスタードクリームが挟まったものを手に取った。
「ん、うまい。
 やはり、脳を活性化するためにも、糖分は必要不可欠だな。」
もふもふと、小動物のほうにドーナツを食べるロイ。
小動物ってオイ、と自分にツッコミながらも、
一口コーヒーをすすった後、自分もドーナツを口にした。

「んー、こうやってお前とゆっくりできるのも久しぶりだな。」
こてん、とこちらに少し寄りかかりながらロイが話しかけてくる。
そうだなー、と返事を返してロイの顔を見ると、
口の端には先ほどのカスタードクリームがくっついていた。
それをちょいちょい、と指で示したのだが、
気づいてもらえなかったので親指の腹で、それを拭いとった。
もれなくそのクリームを自分も味わうのも忘れずに。
そんな様子をみたロイは何か言いたそうな顔をしていたので
「ん?口で舐めとった方が良かった?」
と首を傾げ茶化しながら言うと、
顔を赤らめて「馬鹿者」と頭を一つ叩かれた。
特に、というわけではないが、
こういう雰囲気が俺は好きだな、と思う。

俺が食べ終える頃、
ロイも2つ目のドーナツを食べ終え、
3つ目に手を伸ばしている時だった。
よく食べるなーと思いながら、ロイが食べている様子を見守る。
しかし、流石に3つ目になるとお腹がいっぱいになるのか、
食べるペースが落ちてきていた。
俺がじぃっと見ていたのに気づいたロイが
「なんだっ、お前やっぱりもう1つ欲しかったんだろ。
 だから言ったんだ、でもやらんぞ?」
と少し勘違いをした言葉をかけてきた。
「そういうお前さんこそ、もうドーナツ飽きてきたんじゃねぇの?」
思っていたことを口にしてやると、
図星だったのか一瞬ぐっとロイが詰まった。
それを悟られまいと思ったのか、
さっきよりも食べるスピードを速めて、もぐもぐと口を動かしていた。
あーあー、そんな風に食べちゃ、
せっかくのドーナツも美味しくなかろうに。
3つ目のドーナツが殆どなくなった頃、
閃いた俺はロイが最後に残しておいたドーナツに手を伸ばした。
「あっ、お前それはっっ…」
とロイが言った瞬間
ぱく、と一口食べる。 へへん、先手必勝。
躍起になって残ったドーナツを食べて、
俺の手にあるモノを取り返そうとするロイ。
がしかし、俺がもぐもぐもぐと3口で先に食べてしまった。
うーーー、分かっちゃいたが、すっげー甘い。
ロイはというと、
きっと最後に残していたのが一番のお気に入りであったのだろう、
目にうっすらと涙まで浮かべて、こちらを睨みつけていた。
「貴様、覚悟はできているな……。」
先ほどの雰囲気はどこへやら、手に発火布を装着しようとする。
「まーまーまーまー、ロイちゃん、そう怒らずに。」
素早く自分のカップを手に取り、
それをロイの口に添えコーヒーを一口飲ませた。
何をする?!という顔をしているそこへ、自分の唇を重ね合わせる。
「?!!!!!」
口内に広がる、甘いドーナツとほろ苦いコーヒーの味。
バタバタとロイが暴れ出したが、
自分の腕の中に閉じ込めてそれを抑える。
やっぱり甘いもんには
ブラックコーヒーだよなー、と考えながら余すとこなく味わった。
ロイが腕の中で大人しくなったころ、漸く口を解放した。
はぁ、と大きく息をするロイ。
「ははは、もうロイちゃん食べるの辛そうだったし、
 ドーナツのおすそわけー。
 コーヒーで口ン中リセットできて、良かっただろ?」
「…………こぉの大馬鹿者が!!!」
しれっと言った俺に、怒ったロイの拳が腹にきまる。
「い…いてぇ。悪かったって、ロイ。
 お前さんがあまりにも、ドーナツドーナツ言うもんだから。
 ちょっと、やきもちやいちゃってさーー。」
殴られたところを摩りながら、バツの悪そうな顔をして謝る。
するとロイは
「……お前、菓子にまでやきもちやいてどうするんだ…。」
と呆れた顔をして言った。
「や、俺も自分じゃどうしようもできねぇし。」
と苦笑しながら答えて、頭をかいた。
するとロイは俯いてぼそっと
「しかし…あれは強引すぎだ…。
 あれでは、抵抗したくなるではないか。」
と。
「おぉ、どしたー、ロイ。
 あれか?強引じゃなかったら、しても良いってこと?」
俺の聞き間違いじゃなかったら、そう思ってもいいはず。
「いっ?!ぃやかましいっ。」
思わぬ自分の発言を指摘されて、バタバタとまた暴れるロイ。

ホント、何でこんなに可愛いのかねぇ。
本人に、こんなに「可愛い」って言ったら、
その白い頬を膨らませて烈火の如く怒るけども。


あー、今日は定時に上がれないの、決定。



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This fanfiction is written by Rin.
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