ヒューズ×ロイ(ヒューズ没後、士官学校時代の思い出と七夕話)
2007.07.08.Sun.りん
「逢瀬」





「おい、ロイ……ちょっといいか?」
夜も更けて、寮の消灯時間が過ぎようとしているころ
ヒューズは同室人の服の裾を引っ張りながら呼びかけた。
「…なんだ?」
せっかくの読書を邪魔されて、むっとした表情で振り返るロイ。
意外とあっさり自分の方を向いたことに安堵しつつ、ヒューズは話を続けた。
「やー、今からちょっと外、出ないか?」
「はぁ?今からって…規則違反じゃないのか?」
「あーー、大丈夫。
 別に、校外へ出るわけじゃねぇし。ちょいとそこまで出るだけだから。」
そうはいっても時間も時間なので、ヒューズの提案にロイは驚いた。
「――しかし、」
「あんまり根詰めすぎると、息も詰まっちまうぜ?」
たまには夜くらいのんびりしてもいいんじゃねぇの?笑いながら、ウィンク一つ。
そんなヒューズに面食らいながら、ロイは暫く思案してコクリと首を縦に振った。
「………まぁ、今日くらいは―」
「んじゃ、そうと決まればさっそく出発ー。」
ロイの答えが言い終わらないうちに、
ヒューズは意気揚々とロイの手を掴んで部屋の外へとくり出した。


「おいヒューズ、どこまで行く気なんだ?」
サワサワサワと夜風になびく草を踏みしめながら、ずんずんと進んでいくヒューズ。
先ほどから握られたままの手が、何か熱い。
「ひゅーずっ・・・」
「お?んーー、この辺で良いかな。」
漸く立ち止ったところは、寮から離れた草原。
少し坂になっていて、小さな丘のようにも思える。
外での演習にもたまにしか使わないこの場所は、
明かりもなくて、夜の空気が支配していた。
「ヒューズっ…いい加減に手をっ……」
誰かが見ているわけでもないのだが、恥ずかしさがこみ上げる。
「何だ、別に手くらい気にすることないだろ〜?」
此方からは表情が伺えないが、おそらくへらへらと笑っているのだろう。
ヒューズはこちらの気も知りもしないで、ずっと空を見上げていた。
「おーー、あったあった。やっぱ、中央でもここだとよく見えるんだなー。」
何かを見つけたのか、うんうんと一人頷いたヒューズはいきなりその場に寝転んだ。
ということは、手を繋いだままの自分はもれなくそれに引きずられるわけで――
「ぅわっ…ちょっヒューズ!!!」
バランスを崩して、ヒューズの真横に座りこむ形となった。
「まーまー、そう慌てんなっての。ここに横になってみ?」
よっと腹筋を使って起き上ったヒューズが、ロイの肩を押しながらにっこり笑った。
なんだかよく分らなかったが、言われたとおり横になってみる。
大人しく寝転んだのを見てヒューズも再び横に寝転んだ。


空には満天の星。
今夜は新月なのか、月明かりもなくて星の瞬きがよくみえる。
「へへへ、すげーだろ、ロイ。」
ヒューズは、この空をあたかも自分の作品のように、自慢げに言った。
「……まぁ、確かにな………」
無数に輝く星空を見つめていると、自分が夜空に吸い込まれていくような…
そのまま溶けていきそうな気がした。
ここには自分とヒューズしかいなくて、空にはたくさんの星がまたたいていて。
どこまで行っても闇色の夜空から見れば、自分たちはちっぽけな存在に思えて。
何とも言えない不安がこみ上げてきて、思わずヒューズの袖を握りしめてしまった。
そんな様子に気づいたヒューズは
「んーどうした?俺はここにいるぞ??」
と笑いながら、答えて
「まぁ……こんなただっ広い宇宙から見たら俺たちなんか、ちっぽけなんだろうなー…」
と腕を上げて、ロイの髪をやんわりと撫でた。
「っと、俺はそんな事を言いたかったんじゃなくてっ。」
声色を明るく変えて、ヒューズは話題を変えた。
「ほらロイ、あの左上に目だって光ってる星、何だかわかるか?」
夜空を指さして、ヒューズが訊ねてくる。
「もちろん、知っているにきまっているだろ。あれだ、こと座のベガ。」
ヒューと横でヒューズが口笛を吹いた。
「ご明察。では、その右斜め下にいる星は何でしょう?」
………こいつ、何か馬鹿にしてないか?
「………わし座のアルタイル……。」
少しぶっきらぼうに答えてやった。
「さっすがロイちゃん、物知りですね〜。
 そう、この2つの星と、はくちょう座のデネブ…
 この3つで『夏の大三角形』を形作っているのは知っているだろ?」
「あぁ、もちろんだ。」
「じゃぁ、これはどうだ?」
再びヒューズが夜空を指さして言う。
「俺が田舎にいたころに聞いた話なんだけどなー、
 遠い東の国では『ベガ』と『アルタイル』にまつわるこんな話があるらしいぞ。」
自分は知らない話だ。
知的好奇心を揺さぶられて、ヒューズの話の先が気になった。


「アルタイルは農家の息子で牛を飼ってた。
 んで、ベガはその国のお姫さんで、
 そのお姫さんの作る織物は不思議な力が籠ってて、皆に重宝されてた。
 それでな、二人は、よく働くよい若者だった。
 ベガのお父さん…王様だな、は娘の働きぶりに感心していたけど、
 年頃の娘が化粧もしないで一心に働いてばかりいるのは不憫だと思った。
 そこで、国一番の働き者のアルタイルと結婚させることにしたんだ。
 しかし結婚したとたん二人は、仕事も忘れて二人ではしゃぎまわってばかり。
 王も初めは新婚だから、と大目に見ていたが、
 いつまでもそんな有様が続くから、とうとうお父さんも怒ってしまった…。」
物語を語り聞かせるような口調に、
思わず聞き入ってしまい、ヒューズを掴んでいた手にも力がこもった。
「んで、怒った王様は、二人を会えないように離れ離れにさせて…。
 ほら、あの星のようにな。
 あの星の間の白い川のように見える筋を、その天の川といって……
 遠く隔たれているらしい。滅多に会えない。
 それでな、そのあと王様はベガにこんな事を言ったんだ。
 『姫よ、いつまでも心得違いをしていてはいけない。
  心を入れ替えてまじめに仕事をするならば、
  年に一度7月7日にアルタイルに会うことを許そう。』と。」
「それは、王の勝手ではないのか?
 王の意思で二人は一緒になったのに、そのくせ娘が働かなくなったら別れろ、だなんて。」
起き上がってヒューズの顔を見ながら言った。
だって、釈然としない。
そんなロイの表情を見て、ヒューズは苦笑しながら答えた。
「んーまぁ、そうなのかもしれないんだけどなぁ…。
 あ、この話には続きがあってな……
 それ以来、自分の行いを反省した姫は年に1度の夫との再会を励みに、
 以前のように機織りに精を出すようになりました。 
 青年も勿論思いは同じ、働いて働いて...7月7日を待ちました。
 こうして、アルタイルとベガは互いの仕事に励みながら、
 指折り数えて7月7日の夜を待ち続ける。ってなわけ。」
ふーん……と最終的に気のない返事を、ロイは返した。
「んで、その7月7日が今夜ってなわけ。」
「驚きだな、お前がお伽話を好きだったなんて、知らなかったぞ。」
「ちょっ、ロイちゃん。このお話を聞いて、感想はそれだけなの?」
少し拗ねた声色でヒューズが言った言葉に
「だってお前、物語を話すの下手だから。」
と、しれっと答えてやった。
ちょっとむくれた表情をしながらも、ヒューズは尚も話し続ける。
「でもなー……俺、二人のことすげーと思うんだ。
 だってさ、大好きな人に毎日会えなくなるんだぜ?
 俺だったら、寂しくて寂しくて、逆に何もできなくなっちまうかも。」
ホントよくしゃべる奴、と思いながらもロイはなぜか耳を傾け続けた。
「だからさー…、俺………今すっげー幸せ。
 だって、お前さんと一緒にいられるんだもん。」
「…なっ、お前恥ずかしげもなく何をっ……」
ヘラヘラと人懐っこい笑みを浮かべたヒューズにつられて、
恥ずかしいはずの自分も笑みがこぼれた。

くすぐったいけど、何か心が温かい………確かにそんな日々もあったんだ……。



「……さ、大佐っ、起きて下さい、こんなところで寝たら風邪ひきますよ?」
体を揺さぶられて目を覚ますと、周りには見慣れた部下たちの姿が。
「お疲れなのはわかりますが、この書類片付けてしまいましょうね?」
にっこりと微笑む美人で有能は副官が、書類の束を再び持ってきた。
「ん…、すまない。皆、付き合わせてしまって。」
「いえ、良いんです。少しでも、大佐のお力になりたいので。」
「そうッスよー。ってか、そんな謝らんでください、こっちが調子狂っちまいますから。」
「皆……優しいんだな。」
そう言ってロイが微笑んだ瞬間、司令部の面々の顔が変わった。
「たたたたたた大佐っ、今夜はもうお帰り下さい!!」
「そうです、今夜はゆっくりお休みになってくださいっ」
「じゃじゃ、俺が送って…っ」
「少尉っっ、抜けがけはっ…
 いえ、貴方はまだたっぷりと仕事が残っているのでそっちを片付けなさい。」
「そんなーー、中尉ーーー。」
「問答無用です。」
「「アイ・サー。」」

…何か、楽しそうだな。
でもまぁ、せっかく帰ってもいいという許しが出たんだ。
今日は、さっさと帰ろう。
「じゃ、お先に失礼するよ。」
「「「たっ大佐――」」」
司令部から聞こえた声は無視して、一人夜道を歩いて帰ることにした。
司令部から自宅まではそう、遠い距離でもないし。

歩きながら空を見上げると、あのときと何も変わらぬ星たちが自分を見降ろしていた。
そういえば今夜は7月7日か……。
だから、あんな恥ずかしい夢を。

あの時と同じように、夜空を彩る三角形を見つけて…
そのうちの2つの星を指さしてひとりごちた。。
「ベガとアルタイル……、1年ぶりの再会を祝えているのだろうか…」
ヒューズ……今なら、お前の言っていたことが分かるよ。
「でももう……もう私たちは1年に1度も会えない。」
あの時は、こんな日が来るとは思ってなかったのに。
軍人になるという覚悟が、どこか甘かったのか。
「ヒューズ…お前に会えない日々は、とても寂しいよ……。」

こんなこと、生きてるうちには決して言ってやらなかったけれど。

でも今は、空に輝く二人を、
1年に1度でも会える二人を、とても羨ましいと素直に思う。


ひょっとしたら、あの夢を見たのも……あいつの仕業なのかもしれない。
らしくない気持ちにかぶりを振ると、ロイは歩調を速めて帰路を急いでいった。



7月7日の夜に、ひと時の逢瀬を。



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This fanfiction is written by Rin.
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