ハボック×ロイ(ヒューズ没後、ヒューズ→←ロイ前提気味)
2007.07.01.Sun.りん
influence
時間は、いつも何事もなかったかのように流れていく。
ヒューズ中佐が准将へと2階級特進したあとも、変わらず時間は等しく流れて。
初めこそこの東方司令部であっても、
しんみりとした寂しい雰囲気が漂っていたが
東方司令部の司令官であり彼の親友でもあるマスタング大佐の
冷静にてきぱきと仕事をしていく姿を見せられては、そう落ち込んでもいられない。
が、何かおかしいのだ。
「何か」というのもおかしいか。 その何かとは、大佐のことなのだから。
「あらハボック少尉、お暇そうね。
なら、この3・5地点の事件の資料を集めて、大佐にお渡してもらえるかしら?」
執務中に、物思いにふけ込みすぎたらしい。
中尉は僅かに怒気の入った声で、
持っていた数冊のファイルのうちの一冊を俺の机に置き、俺に新たな仕事を付け加えた。
「はいはい、了解しましたー。」
「返事は、1度で十分です。」
キィ…と椅子の音を立てて伸びをしてから返事をすると、
中尉にぴしゃりと言い放たれ小さく謝った。
「それと…」と中尉は声をひそめて俺の耳元まで身をかがめる。
「それと…大佐のご様子も窺ってきてもらえるかしら。」
………あぁ、この女性(ヒト)もやはり、彼の異変に気付いているのだ。
コンコン…――
「ハボックです。大佐、入りますよー。」
声をかけて執務室に入る。
返事がなかったのでもしかしたら…と思っていたが、案の定しん…とした部屋。
いつもは未決裁の書類が高々と積まれているはずの机にも、
今は得体のしれない黒いファイルが1冊乗っているだけ。
最近の大佐の様子からして珍しいなと思いつつも、
中尉に任されたファイルと集めた資料を置こうと、持ち主不在のデスクに歩み寄った。
置いた拍子に、その黒いファイルからはみ出た書類が目に入る。
大佐には珍しい、何やら書きなぐったような文字。
その中に、今はもういないあの人の名前が書かれてあった。
途端にざわつく胸。 黒い思いが少し流れる。
しかし、ひとつ深呼吸をして騒ぐ自分を抑え、
目的の人物に会うために部屋から出た。
場所の大体の予想はついている。きっと、そこにいるだろう。
あの人はまた、一人で抱え込んでいるのではないか・・・。
「そろそろ、頼ってくれてもいいと思うんスけどねぇ…」
金属製の少し重いドアを開けると、ぶわっと少し強めの風が通り抜ける。
少し歩いて柵のほうに目をやると、案の定探し人は見つかった。
柵に体を預け、遠くを眺める大佐。
その目線は、遠い遠い西を見ているようだった。
思った通りだ。ここなら建物にも邪魔されず、見渡すことができるから。
肉眼では見えぬ、彼の都に思いを馳せて。
光のせいか何か、大佐が余にも儚く見えて、
そのまま消えていなくなってしまいそうで……
その瞳で映すものが俺であって欲しくて、少しでもこっちを向いて欲しくて……
堪らず柵を鳴らして、大佐を腕の中に閉じ込めた。
「…なんだね、少尉?上官を抱きしめるとは、いい度胸をしているな。」
「大佐こそ…何考えてたんスか?」
「馬鹿者、質問を質問で返すな。」
眉をしかめた様子が、気配で伝わってくる。
少し話しにくい雰囲気だったが、
ここで引き下がれないということは分かっていた。
「その…大丈夫ですか?」
「だから、なんだね。私はいたって普通だが。
今日なんて、仕事を片付けてきたのだぞ?」
「それが変なんです。だって…あんなことがあったのに……」
そんなことか…、とため息とともに吐き出された。
「真面目に仕事していて 何が悪い?早く片付いて、残業が減る。
何より、中尉に怒られない。良いことばかりじゃないか。」
相変わらず瞳は遠くを見つめたままで大佐は言う。
「そういう問題じゃなくてっ!」
どうしたら大佐はこっちを向いてくれるんだろう。
思わず抱きしめた腕に力がこもる。
ねぇ、大佐。そんな強がり、俺にだってわかりますよ。
悲しみを、疲れた表情を部下の前ではみせまいと気を張って。
たくさん背負い込んで、今までとは比べ物にならないくらい仕事に打ち込んで。
自分の腕の中にすっぽりと納まってしまう大佐の身体。
以前よりも少し痩せてしまったのではないだろうか…。
「では、どういう問題なんだね。少尉?」
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、
相変わらず大佐の返事は淡々としている。
「大佐、アンタ最近無理しすぎです。ちゃんと食べてます?睡眠はとってますか?
俺たちに内緒で、何か危険なことやろうとしてませんか?」
「それは、君の勝手な思い違いだよ。
まぁ、もしそうだとしても、少尉には関係のないことだ。体調管理も自己責任、そうだろう?」
だから私に構うな、と明らかな拒絶の態度。
「そうやってっ!!」
そんな大佐の態度に、カッとなってしまったのかもしれない。
「そうやって、今もこうしてここであの人のこと考えて、
今にも倒れちまいそうなほど悲しんでるくせにっ。
あの人のこと考えないように、仕事に打ち込んでるのバレバレなんですよ?!」
駄目だ。
「そのくせ、あの人のコトにかかわる何かを、俺たちに隠れてやってて!」
止まれ。
「そんな大佐、見てられないっス。
…っそんなにあの人のこと、忘れられないんスか?!」
こんなことを今言いに来たんじゃない。
「俺じゃだめなんスか?
あの人の代わりに、あなたの側に立たせてもらえないんですか?」
でも…もう止まらない。
「好きです、大佐。」
大佐の身体がびくりと一瞬震え、漆黒の瞳が漸く俺の方を向いた。
「好きなんです。」
その瞳を逃さぬよう、必死に気持ちを伝える。
「俺がいますから。……だからもう、そんなに一人で抱え込まんでください。」
「……………。」
「少しでも、あなたの支えになりたいんです。」
黙ってただ静かに俺の告白を聞いていた大佐が、ふと口を開いた。
「ほぅ、ではどこぞの三文芝居のように、
お前が奴のことを忘れさせる――とでもいうのか?」
忘れさせたい…果たして本当にそうなんだろうか……何か違う気がする。
「……中佐のこと……忘れてほしいけど、忘れちゃいけませんよ。」
「…?なんだ、それは。さっきと言っていることが矛盾しているぞ。」
「…自分でも、分かっちゃいるんスけどね。」
あの人のこと、忘れてほしい。
あなたを悲しませているものの一つに、彼の存在があるのなら。
あの人のこと、忘れないでほしい。
あなたをあなたであらしめているものの一つに、彼の存在があるのなら。
相対する感情が渦巻いて、自分でもよくわからない。
困った顔で笑った俺を、おかしな奴だな、とそう言って
大佐はくしゃりと俺の前髪を撫でた。
「私が、ヒューズを忘れることはないだろう…。
お前が奴の代わりをやろうだなんて、100年早いよ。」
「……ですよね…。」
「…しかし、お前の代わりもどこにもいない。」
「大佐っ…」
「そのことを忘れるな、ハボック。」
『忘れるな、お前さんたち一人ひとりがその人にとっての唯一無二なんだぜ。』
大佐の言葉を聞いて、不意に彼の声がフラッシュバックする。
いつだったか、
大佐たちの夕食の席に俺も招かれたときに、彼が言っていた言葉。
確かその後、だから同じ恋も2度とできないとかなんとか、
よくわからない持論を繰り広げていたっけか。
言った本人である大佐も2,3度瞬きをしてから、
同じ光景を思い出したのか、ややあって苦笑いをして目線を落とした。
「アイツも騒がしいやつだ。」
が、一言つぶやいた後にあげた瞳にはすでに何の感情も映していなかった。
「さて、ハボック少尉。そろそろ職務に戻った方が良いとは思わんかね?」
このままでは有能な副官に怒られてしまうよ、と言うと、
俺の腕の中からも告白からもスルリと抜けて行ってしまう。
ズルイ。そうして、いつも俺ははぐらかされてしまうんですね。
今でも確かに息づく彼の気配。
ふとした瞬間に、
自分の中にも確かに彼が存在しているんだということを自覚させられる。
「…たく、どこまで出張ってくるんスか、アンタは。」
アンタは上で指でも銜えてみてりゃ良いんだ。
ここからが俺の、反撃開始なんですからっ!!
ちょっとくらい毒づいたってバチはあたらないだろう。
「ハボーック!置いて行くぞ。」
「!! イエス、サー!」
高い高い空を見上げて、
聞こえるかどうかわからない文句をもらしていると、大佐から声がかかった。
すでに階下へと消えかかっていたので、慌ててその後ろ姿を追いかける。
…どこか遠くで、全てを見ていた彼が笑った気がした。
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にゃんこのしっぽ
This fanfiction is written by Rin.
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