「存在」6話
2007.12.10.Mon.如月さくら
暗闇にぼんやりと浮かび上がるのは満月。

色白で、腕を伸ばしても触れられそうに無い。

仮にその月に手が届いたとして、
自分は一体、何ができるというのか。

指先に感じて、
どうするというのか。





*存在 じじつ*





「何スか?コレ。」

廊下で呼び止められ、目の前に差し出されたもの。

「・・・ロイから。」

「ロイ?」

聞いた事の無い名には興味を惹かれたが、
少々不機嫌な様子のヒューズには首を傾げるしかなかった。

「お前さんが手紙を出した相手だよ。」

しかし、次の言葉で思わず顔を上げる。

「えっ・・・」

「いらねーなら、」

す、と目の前から消えたものに焦って、自然と手が伸びる。


薄い青色の封筒は、
自分が渡したものと違って厚みは無い。

けれど、宛名にはしっかりと自分の名前。

くるりと裏返せば、
そこには先程聞いたばかりのあの人の名前。

「・・・ロイさん、かぁ。」

綺麗な響きだと思った。

名前が与えるものが何かは良く分らなくても、
あの人にはぴったりの音だと、何故か思う。


手紙の内容は、大したものではない。

当たり障りの無い、普通の返事にした。

色々と聞いてみたい事も、
話したい事も思いついたけれど、
いきなりつらつらと書き綴るのもどうかと思った。

それは本当の事だったし、
正直、ヒューズ以外の誰かと
関わりを持つ事は極力避けようとも思っていた。

自分の身体の状態が分からない程、
馬鹿ではないと思っていたから。

けれどそれでも、
ハボックという人に興味はあったし、
あの色に惹かれたのは、事実だった。

手紙の終わりに、
いつかゆっくり話せる日がくると良いなどと、
出来心で書いてしまう程には、冷静さを欠いていたと言える。


「だらしねー顔・・・。」

次の日、ブレダに呆れ顔でそう言われても、
ハボックの頬は緩んでいた。

「返事、なんだって?」

何度か聞かれた質問も、
今の自分には全く答える気もしない。

返事がもらえた事だけでも十分嬉しかったのに、
会えたら嬉しいなどと書いてあったのだから。

それが相手の本当の言葉かどうかは定かではなくとも、
少なからず、自分との繋がりができた事実。

興味など無ければ、
返事なんてしなければ良いのだから。

陽に透かした封筒は昨日と何の変化も無かったが、
手元にある、たったそれだけの事で
ハボックにとっては十二分に意味があった。

細めのペンで書かれたであろう、文字。

自分とは違い、
誰が見ても綺麗だと思える文体。

流れるような、
それでいて一文字ずつがとても輝いていて。

そんな風に見えるのはお前だけだと親友に突っ込まれても、
頬の緩みも気分の高揚も、抑える事はできなかった。


文字だけのやりとり。

単なる自己紹介も、
その日あった些細な出来事も、何もかもを伝えたい。

出来るだけたくさんの、
けれど邪魔にならない程度に。

自分の言葉を、
自分の想いを、
自分の存在を、
ただただ受け止めてくれるあの人に。



ホームページ : にゃんこのしっぽ

This fanfiction is written by SakuraKisaragi.
Please do not copy and reproduce from my fanfictions without permission.